地図位置情報関連の企業やサービスが一堂に会する展示会「ジオ展2020」が、2020年11月27日が開催されました。
コロナ禍の影響を受けて今回は初のオンライン形式で実施され、地図や位置情報に関連する48もの企業やサービスが出展。多数のプレゼンテーションや展示が行われた中から、イベントを締めくくる最後の基調講演として行われた「勝手に選ぶ 2019-2020 ジオ界隈10大ニュース!」の内容をイベントレポートとしてお送りします。
基調講演に登壇したのは、地図や位置情報に関する国内の最新ニュースを配信する「GeoNews」主宰のジオ専門ライター の片岡義明さん。前回ジオ展が開催された2019年4月から今回の2020年11月まで約1年半に渡る期間の中で、地図や位置情報に関する興味深いニュースを、ジオ展実行委員会である365yの小山文彦さんと協議しながら10大ニュースが選ばれました。
Googleマップのルート検索に自転車タブが追加され、急坂やトンネル、悪路を避けるルートや自動車レーンのあるルートなど、自転車に最適なルートを表示できるようになりました。荒川河川敷など車が通行できないルートでも自転車ルートとして表示されます。現在のところ、東京都、神奈川県、大阪府、愛知県、埼玉県、千葉県、兵庫県、北海道、福岡県、静岡県の10都道府県で展開されています。
「ドラゴンクエストウォーク」「ハリー・ポッター:魔法同盟」「進撃の巨人 in HITA」「CrosLink」などさまざまな位置情報がリリースされた一方で「イングレス」「Pokémon GO」などの人気位置情報ゲームもまだまだ現役。また、厳密には位置情報ゲームではないものの、実際の地図を使って遊べる「PAC-MAN GEO」、歩いてマイルを溜めるとポイントと交換できるインクリメントPのポイントアプリ「トリマ」などもリリースされました。
なお、片岡さんは街の中の区画ごとに色を塗っていく位置情報ゲーム「テクテクライフ」にハマっているそうです。
LBMAは「location based marketing association」の略。位置情報を活用したマーケティングやサービスの促進を目的とする事業者団体として、位置情報データを扱う上でのガイドライン策定なども行うLBMA Japanが発足しました。位置情報関連の企業だけでなく、三井住友海上やJR東日本企画なども参加しており、どんな活動に取り組むのか注目とのことです。
兵庫県は2020年1月、静岡県は2020年4月に点群データを公開、公共インフラのメンテナンスや史跡の保存などいろいろな用途に使えると期待されています。整備には非常にお金がかかる一方、「定期的に更新して時系列の分析なども行なえるといい。今後は全国で進んで欲しい」と片岡さんは期待を寄せました。
GPSチップやLPWAなどによる通信料金の低価格化でさまざまなサービスが登場した一方で、こうした見守りサービスがコロナ禍で逆風を受けているという側面もあります。見守りは子供だけでなく高齢者の見守りも有効であり、「今後はトラッカーを使った資産管理や防犯用途のサービスも増えていくのでは」と片岡さんはコメント。
また、「見守り用途の未来を予感させる」と片岡さんが高く評価したのが、2020年9月に行われた「教育ITソリューションEXPO」で登場した、本田技術研究所の「Ropot」です。みちびきのSLASサブメータ級測位を採用しており、通常のGPSより精度が高いことに加えて、危険なポイントや後方から近づいてくる車を注意喚起する機能など、位置情報トラッキング以外にもさまざまな機能が搭載されています。
実際に実証実験を取材した片岡さんは「LEDランプで表情が変わるところが子供に受けていた」と言います。残念ながらまだ製品化の予定はありませんが、「今後はこういうデバイスが実用されていくのではないか」と片岡さんは期待を寄せました。
地理院地図が提供したベクター版の地図サービスで、従来の地理院地図を踏襲しながらも、地図をぐるぐる回したり斜め上から見たりサイズを変えたり白地図にしたりといろいろなことができます。先日地理院地図が実装した、住所の読みをひらがなにする機能も、ベクター版に同じ機能が搭載されているとのこと。
最近ではスタイルファイルのサンプルの提供も開始しており、シンプルなデザインで軽い地図、道路だけ目立たせた、鉄道関連の情報だけを表示、地形だけ、川だけ等色々用意されています。
なお、Geoloniaの地図でもOpenStreetMapに地理院地図Vectorを組み合わせて使っており、この地図を表示するGeoloniaのJavaScript APIは、Mapboxのライブラリと高い互換性を持っています。互換性を維持しながら、HTMLだけで地図のスタイルをカスタマイズできる機能を提供しているのが特徴です。
また、国土地理院のベクトルタイル配信実験に携わった国土地理院の藤村さんは現在国連に出向し、地図タイルのベクトル化など国連内部の地理空間情報の技術改良にも取り組んでいます。これを元に地図配信をベクトル化するための技術をパッケージとしてまとめたプロジェクトが「国連ベクトルタイルツールキット」です。なお、このプロジェクトには、Geoloniaの宮内、鎌田の2名がコミッターとして参加しています。
このプロジェクトは、今後国連や国土地理院だけでなく各国の国家地図作成機関へも広げていくとのこと。Google Mapでは予算やライセンス的に利用が難しいような発展途上国のインフラ地図などでも活用されています。
関連した話題として、「地図のベクトル化が一層進んだのもここ1、2年の流れ」と片岡さんは指摘。ベクトル化はMapboxのデータ形式をを使ったものが多く、マピオンやマップルラボがベクトル地図を公開したほか、ジョルダンも以前は独自形式のベクトルだったのが地図配信にMapboxの仕様を採用しています。
Google マップのストリートビューに相当する機能としてルックアラウンドが日本で利用できるようになったほか、日本の都市詳細道路が追加され、3Dランドマークが高精細になりました。「Apple マップは着実に進化して素晴らしい」と片岡さんは高く評価。ちなみに片岡さんは、Appleマップのパトロールカーを高速道路で偶然見かけたそうです。
注目の3位以上のニュースに入る前に、惜しくも選外となったニュースも発表されました。ランキングからは漏れているものの、「重要でないと思っているわけではなく、専門性が高い」と片岡さんが評したジオニュースを一挙に紹介します。
行政のDXが話題になっていますが、これに先駆けて2019年に国土交通省が「2023年度までに小規模な工事を除いて公共工事で原則としてBIM/CIMを活用する」という方針を示しました。もともと2025年までだった期限を前倒ししたとのことで、在宅勤務や建機のリモート操作、自動運転などの実現が加速することが期待されています。
農地上法の一元的な収集・管理方法や、効果的な活用方法について検討するために、農林水産省が2019年11月から検討会を開催し、今年の3月にとりまとめを発表。将来的な自動運転やドローンなどの活用、衛星画像による現地確認、災害対応などへの活用も視野に入れているそうです。
古地図をゆがめることなく現代地図と自然に重ねられるオープンソースの地図ビューワー「Maplat」の機能として、点と点の対応だけでなく道路や川などの線も正確に変換する技術を開発、これに用いる概念として大塚さんが提唱する概念が「HTGCL」。現代地図の道路や河川のネットワークデータを軸にしてさまざまな時代の古地図の道路や河川の位置を相互に関連付けることが可能になり、昔は川だったと言われたところがいつから道路になったのか、といった地図の歴史的な変化の分析が機械的に行いやすくなるそうです。
トヨタグループのTRI-ADが、MMSなどの計測車両を使わず衛星や一般車両から得られる画像データを元に自動運転用の地図情報を作成したというニュース。自動運転に必要な相対制度、約50cm以下の地図生成が可能とのことです。トヨタは静岡県に実証都市を建設する計画を発表しており、「こういう地図生成技術もスマートシティや自動運転に今後活かされていくのでは」とのこと。
プログラミング専用教育パソコン「IchigoJam」の互換機を使用した車載器で、必要な部品やケースを購入して自作することでとても安価にバスロケシステムを構築できます。さくらインターネットのIoTプラットフォームを利用することで車両1台あたり月額150円程度の通信料金での運用できます。講演終了後のチャットによるフォローによると、機材費は約17,000円程度とのことです。
経済産業省がオープンソースで公開したIMIコンポーネントツールを使ってGeoloniaが公開した、オープンなジオコーディングAPIが選外ながらも話題の情報として取り上げていただきました。また。Geoloniaが不動産テック協会と共同で取り組んでいる不動産IDの開発や、地番情報を扱えるジオコーダーの開発についても紹介していただきました。
一連の話はGeolonia代表の宮内が、「State of the Map Japan 2020」の講演で語っており、この模様は「GeoNews」でも紹介していただいています。
OSMマッパーが集う恒例イベント「State of the Map Japan 2020」がオンラインで開催 │ GeoNews https://geo-news.jp/archives/2046
NTTドコモが「docomo IoT高精度GNSS位置情報サービス」、ソフトバンクが「Ichimill」を開始したほか、KDDIもジェノバと2020年4月に業務提携し、高精度測位情報の配信サービスを提供開始します。
関連してみちびきの高精度測位に対応した製品も徐々に増えてきたことを片岡さんは指摘。いまのところ製品はゴルフナビ系が多いのですが、これは「ゴルフはグリーンまでの距離の精度にこだわるユーザーが多い」ためだそうです。
また、みちびき対応のドライブレコーダーやレーダー探知機も登場しましたが、これらはサブメーター級測位を搭載。センチメーター級即位対応の受信機はまだまだ高価であり、コンシューマ製品に搭載されるのはもう少し先になりそうです。
選外ニュースの最後を締めくくったのは、ニシムラ精密地形模型の大道寺さんがプロデュースする「M」。片岡さん曰く「地図好きにはたまらないお店」であり、「Webサイトで予約の上訪れてね」とのことです。
選外に続いて発表されたトップ3は、日本に留まらない世界規模の話題が選ばれました。
海外の地図会社である2社が日本向けの地図をリリース、日本市場に参入しました。
Mapboxは従来はOSMのデータを使っていたのが、日本エリアではゼンリンを採用。Yahoo!マップや日本経済新聞の「新型コロナウイルス感染 世界マップ」、東京中の鉄道を地図上で再現した「Mini Tokyo 3D」がMapBoxを採用。昨年に日本法人を設立したPix4Dのドローンマッピングソフト「Pix4Dreact」、3Dマップ作成できる「Pix4Dmapper」もMapBoxを採用しています。
また、MapBox JapanのCEOに元ヤフーの高田さんが就任するというリリースも発表され、「今後Mapbox Japanがどのように日本でビジネス展開していくのか注目」とのことです。
一方のMapTailerは日本向けの地図をリリース。ミエルネとの提携により、OSMの地図データをベースに国土地理院の基盤地図情報を組み合わせてサービスを展開しています。ベクトルタイル形式でデザインのカスタマイズの特徴が高いのが特徴とのことで、観光用などのトラッキングシェアシステム「AUBIT DIGITAL」などで採用されています。「これまでGoogleマップの採用が多かったが、今後はコストやデザインの面でMapboxやMaptilerを選ぶところがじわじわと増えてくるのでは」と指摘しました。
東京で開催され、世界中からジオ関係の識者が集結。基調講演ではOSMの創始者であるスティーブ・コーストや、MapBoxのCEOを務めるエリック・グンデルセンらが登壇し、講演だけでなく国際地図展や子ども地図展、企業の企画展も行われました。
栄えある1位に輝いたのは、位置情報に留まらず2020年最大のニュースである新型コロナウイルスに関する話題。「コロナ禍は大きな災いではあるが、そんな辛い状況にある社会に貢献すべく地図や位置情報が大きな力を発揮した」として、ジョンズ・ホプキンス大学によるCOVID-19の情報サイトをはじめとして、コロナウイルスの感染情報を地図上でわかりやすく示すさまざまなサイトが紹介されました。
スマホの位置情報ビッグデータに基づいて、緊急事態宣言などによって人々の動きがどのように変わったかという分析も多数行われ、位置情報に関わる多くの企業が無償でレポートを公開。三密を回避するために混雑していない店やエリアを確認できるサービスも登場しました。飲食店支援にもジオの力が役立っており、多くのサイトでテイクアウトマップが公開されています。
また、厚生労働省の新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA」は、「絶対位置情報を取っているわけではないものの、BLEの電波によって誰の端末同士が近くにあったのかという相対的な位置関係が記録される仕組みであり、これもまた1つの空間情報の活用例」として紹介。「AppleとGoogleが手を組んだのがすごい」と高く評価しつつ、「まだインストールしていない人はインストールしましょう」と参加者に呼びかけました。
片岡さんは、「前回のジオ展から今日までの間にいろいろなことが起きたが、その中でも特に大きかったのがコロナ。ジオ展に参加された多くの企業や組織がコロナ禍を克服するためのさまざまな取り組みをしていて頭が下がる思いで、そんなみなさんの活動をできるだけ記録して世に伝えることが私の使命」と語り、「引き続き情報提供、取材対応をお願いします」と締めくくりました。